Y
YANAI TAX OFFICE ・ CHIGASAKI / SHONAN

防衛特別法人税、中小法人も申告必須 ― 税額0円でも別表提出、免税ラインを所得で試算

「うちは利益が少ないから防衛特別法人税は関係ない」——この読み違えが、いちばん危ない受け止め方です。2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用される防衛特別法人税は、税額がゼロでも申告書の提出義務が残る税だからです。中小法人・経理担当の方に向けて、免税ラインを所得ベースで試算し、提出漏れを避けるための実務ポイントを整理します。

「利益が少ないから関係ない」が一番危ない

防衛特別法人税は、法人税額に上乗せして課される国税です。名前だけ見ると大企業向けの重い税に見えますが、注意したいのは税額がゼロになる法人でも申告書は出すという点です。

「納める税金はない=何もしなくていい」ではありません。納税ゼロでも申告ゼロではない、というのがこの税の一番の落とし穴です。後述するとおり、赤字の法人や税額が出ない法人でも、該当欄に「0」と記載した申告書を提出する義務があります。

まずは結論から。自社が「税額が出るのか出ないのか」ではなく、「そもそも対象となる事業年度に入っているか」を先に確認してください。対象期に入っていれば、税額の有無にかかわらず申告書の提出が必要になります。

防衛特別法人税のしくみ ― 税率4%と基礎控除500万円

防衛特別法人税は、基準法人税額を出発点に計算します。

  • 基準法人税額とは、その事業年度の所得に対する法人税額(附帯税を除く)です。ただし所得税額控除・外国税額控除などの一部の税額控除を「適用しない」で計算した金額、つまりこれらの税額控除を差し引く前の金額を使います。
  • この基準法人税額から年500万円の基礎控除を差し引いた残りが課税標準となり、そこに4%の税率を掛けます。

式にすると次のとおりです。

防衛特別法人税額 =(基準法人税額 − 基礎控除500万円)× 4%

ここから分かる大事な性質があります。基準法人税額が500万円以下なら、基礎控除を引いた課税標準はゼロになり、防衛特別法人税額も0円です。基準法人税額が500万円を超えた部分にだけ4%がかかる、という設計です。

なお基礎控除の500万円は年額なので、事業年度が1年に満たない場合は月割になります(500万円 × 事業年度の月数 ÷ 12、1月未満の端数は切り上げ)。設立初年度や決算期変更で変則決算になった期は、控除額が500万円より小さくなる点に注意してください。

基礎控除500万円は「所得でいくらまで」か

経営者にとって実感しやすいのは「法人税額でいくらか」よりも「所得(利益)でいくらまでか」です。そこで、基準法人税額500万円を所得ベースに翻訳してみます。

前提を明記します。資本金1億円以下の中小法人/年800万円以下の所得に軽減税率15%・超過部分に23.2%/税額控除による調整は考慮しない/適用除外事業者ではない、というケースの試算です。

課税所得法人税額(=基準法人税額)基礎控除500万円控除後防衛特別法人税額(×4%)
800万円120万円00円
2,000万円398.4万円00円
約2,438万円(境界)500.0万円00円(ここまで税額ゼロ)
3,000万円630.4万円130.4万円約5.2万円
5,000万円1,094.4万円594.4万円約23.8万円

この試算の前提のもとでは、おおむね所得2,400万円台まで(正確には約2,438万円まで)は防衛特別法人税額はゼロになります。中小法人の多くは、税額の負担そのものは当面生じない可能性が高い、というのが率直なところです。

ただし、この2,438万円という数字は普遍的・恒久的なものではありません。基準法人税額は、すべての税額控除を無視した金額ではなく、所得税額控除・外国税額控除など法令で「適用しない」と定められた一部の控除だけを除いて計算します。したがって、賃上げ促進税制のように基準法人税額の計算で差し引かれる税額控除がある場合は、その分だけ基準法人税額が下がり、境界もずれます。どの控除が影響するかは種類ごとに確認が必要で、「所得がいくらだから税額はいくら」という関係は一律にはなりません。あくまで自社の前提での目安として使ってください。

納税ゼロでも申告ゼロではない ― 別表の提出義務

ここが本題です。前述の試算で税額が0円になる法人、さらには赤字で基準法人税額そのものがゼロの法人でも、防衛特別法人税の申告書を提出する義務があります。税額が出ないからといって提出を省略できるわけではありません。

提出は、法人税・地方法人税の申告書と一体の様式で行います。防衛特別法人税の記載欄は別葉として設けられ、**別表一(次葉一)・別表一の二(次葉一)**が新設されました(国税庁パンフレットでは「別表一及び別表一の二の別葉」と説明されています)。税額がゼロの場合は、該当欄に「0」と記載して提出します。

提出漏れが問題になるのは、この「税額ゼロでも提出義務がある」構造ゆえです。「税額が出ないから出さなくてよい」と自己判断してしまうと、申告書自体を出し忘れる原因になりかねません。実際に税額が生じる法人では、提出漏れが加算税等の対象になり得ます。税額の多寡にかかわらず、対象期に入ったら必ず申告書を組む、という運用に切り替えておくのが安全です。

いつから・いつまでに ― 決算期別の初回対象期

防衛特別法人税が適用されるのは、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度からです。裏を返すと、令和8年3月31日以前に開始する事業年度は対象外です。決算月によって初回の対象期がずれるので、「2026年4月1日以後に最初に始まる事業年度は自社ではいつか」を軸に確認してください。

  • 3月決算:2026年4月1日〜2027年3月31日の期が初回。申告・納付期限の目安は2027年5月末。
  • 4月〜11月決算:2026年中(5月〜12月)に始まる期が初回=おおむね直近に始まる期から対象です。
  • 12月・1月・2月決算:2026年に始まる期は対象外で、2027年に始まる期が初回になります(たとえば12月決算なら2027年1月開始の期)。「まだ対象ではない」時期を見誤りやすいので注意してください。

申告・納付期限は、課税事業年度終了日の翌日から2月以内です。法人税で申告期限の延長を受けている法人は、防衛特別法人税も同じく延長されます。この点は消費税の中間申告など期限管理の実務と同じ感覚で、決算スケジュールに最初から組み込んでおくのが確実です。

もう一点。中間申告は初年度(令和8年度)にはありません。中間申告が始まるのは令和9年(2027年)4月1日以後に開始する課税事業年度からで、対象は法人税の中間申告義務がある法人です。初年度は確定申告だけ、と押さえておけば十分です。

なお、防衛特別法人税は法人税額に対して課される国税の付加税であり、地方法人税・法人住民税・事業税とは別の税です。地方税とは計算も申告も切り分けて考えてください。

申告実務とe-Tax

実務で気になるのは、電子申告がどこまで対応しているかです。防衛特別法人税を含む法人税・地方法人税の新様式は、2026年(令和8年)5月25日からe-Taxで受付が開始されています(令和8年4月1日以後終了事業年度分)。e-Taxソフトも同日から対応版へのバージョンアップが可能になりました。

ただし、別表によって対応時期が異なったり、一部がPDF形式での提出になる取扱いが残ることもあります。実際の申告時には、利用する別表がe-Taxのどの方式に対応しているかを、国税庁の利用可能手続一覧などで確認しておくと安全です。なお、電子申告が義務づけられているのは資本金1億円超などの大法人で、中小法人はe-Taxと書面のどちらでも提出できます。

freee申告などの対応ソフトを使う場合も同様で、最新の様式反映がされているかを確認したうえで進めるのが確実です。様式が新設された初年度は、ソフト側の対応時期にばらつきが出やすいためです。具体的な画面や操作手順はバージョンによって変わるため、本記事では踏み込みませんが、「様式が反映されているか」「防衛特別法人税の欄が申告書に含まれているか」を出力前に目視で確かめることをおすすめします。

この記事の要点

  • 防衛特別法人税は税額ゼロでも申告書の提出義務がある税。「納税ゼロ=申告不要」ではない。
  • 計算は(基準法人税額 − 基礎控除500万円)× 4%。基準法人税額500万円以下なら税額0円。
  • 前提を置いた試算では、所得おおむね2,438万円までは税額ゼロ。ただし税額控除があると境界は動くため一律ではない。
  • 適用は令和8年4月1日以後開始事業年度から。3月決算は2027年3月期が初回、決算月により初回の対象期はずれる(12月・1月・2月決算は2027年に始まる期が初回)。初年度は中間申告なし。
  • 防衛特別法人税を含む新様式は、2026年5月25日からe-Taxで受付開始済み(e-Taxソフトも同日対応)。別表により対応時期が異なることがあるため、申告時に利用可能手続を確認する。

出典


新しい税目の申告漏れや、freeeでの様式対応にご不安はありませんか? 矢内隆一税理士事務所(湘南・茅ヶ崎/全国オンライン対応)では、freee認定アドバイザー4★の公認会計士・税理士が、決算スケジュールへの新税の組み込みからクラウド申告の運用までサポートします。 サービス内容を見る → / お問い合わせ →

Related
税制改正

賃上げ促進税制 令和8年度改正で中小企業はどう変わる|最大控除率45→35%の読み解き方

令和8年度改正で中小企業向け賃上げ促進税制の最大控除率が45%から35%に。ただし縮小は教育訓練費上乗せの廃止だけで、基本30%+女性活躍5%は据え置きです。赤字でも使える5年繰越や、今期の賞与・昇給設計への落とし込みまで、控除額とキャッシュ効果を数字で読み解きます。

続きを読む →
税制改正

令和8年度税制改正、中小法人に効くのはどれか──適用開始時期つきの一覧

令和8年度改正で中小法人が確認すべき項目を、適用開始時期つきで一覧にしました。少額減価償却資産は40万円未満へ、賃上げ促進税制は教育訓練費の上乗せが廃止。設備投資は新しい制度より、いま使える制度が令和9年3月末で期限を迎えるほうが重要です。公認会計士・税理士が一次資料で整理します。

続きを読む →
経営改善計画

赤字・債務超過から立て直す ― 経営改善計画を税理士・金融機関とどう進めるか

赤字や債務超過に陥った中小法人が、経営改善計画をどう作り、公的支援(バリューアップ支援事業・405事業)と金融機関の返済条件変更をどう進めるかを、公認会計士・税理士でfreee認定アドバイザー4★の代表が実務目線で地図にします。数値計画の実現可能性と支援制度の入口を整理する入口記事です。

続きを読む →