銀行が見る「債務償還年数」を自分で計算し追加融資の余力を月次で読む
銀行が融資審査で見る「債務償還年数」を、自社の月次試算表(freee会計)から計算し、追加融資の余力や適正な借入額を経営者自身が読む手順を解説。計算式の複数の取り方、10年目安の正しい読み方、月次面談での活かし方まで、公認会計士・税理士が整理します。
続きを読む →黒字なのに資金が苦しい中小法人の経営者・経理向けに、「自社はいくら現金を持っておけば事業が回るのか」を、業種ごとの資金構造の違いをふまえて自分で計算する手順を、freeeの月次数字に当てはめて解説します。
決算は黒字。月次の損益も悪くない。それなのに通帳の残高はいつもギリギリ――この感覚の正体は、ほとんどの場合「運転資金」です。
売上を計上してから現金が入るまでには時差があります。その間にも仕入代金や人件費は出ていきます。この立て替えに必要な資金が運転資金で、事業を続ける限り回り続けるため、稼いだ利益がそのまま手元現金になりません。
問題は、必要な運転資金が業種によって大きく違うことです。同じ売上1億円でも、現金商売の飲食店と、工事代金の回収が数か月先になる建設業では、持つべき現金がまるで違います。この記事では、計算式と業種ごとの構造差、そして自社の数字(freee 会計)から必要額を出す手順までを通しで扱います。
運転資金の基本式はシンプルです。事業を回すのに恒常的に必要な資金を「経常運転資金(けいじょううんてんしきん)」と呼び、次のように計算します。
経常運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務
各項目の中身は次のとおりです。
| 項目 | 中身 | 意味 |
|---|---|---|
| 売上債権 | 売掛金+受取手形 | まだ現金化していない売上(立て替え中) |
| 棚卸資産 | 在庫・仕掛品・原材料 | 現金が在庫の形で寝ている分 |
| 仕入債務 | 買掛金+支払手形 | まだ払っていない仕入(猶予をもらっている分) |
考え方は「自分が立て替えている額(売上債権+在庫)から、相手に立て替えてもらっている額(仕入債務)を引く」です。差額がプラスなら、その分だけ現金を用意しておく必要があります(出典:経常運転資金とは(弥生))。なお銀行実務では「経常運転資金」を「正常運転資金」とほぼ同義に扱い、借入の評価に使う債務償還年数でも同じ式が登場します。本記事は「いくら必要か(必要額)」、債務償還年数の記事は「借入の返済余力」と、同じ式を別の角度から使うものと捉えてください。
もう一つ、「日数」で見る方法があります。こちらのほうが業種の差を掴みやすいので、後半の主役になります。
CCC(資金が寝ている日数)= 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 - 仕入債務回転日数
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、仕入代金を払ってから売上代金を回収するまで、現金が何日間手元を離れているかを表します。この日数が長いほど、より多くの運転資金が必要になります(出典:CCCの計算式(Funda Navi))。
CCCの3つの日数は、それぞれ次の式で出します。いずれも「その残高が、1日あたりの売上(または原価)の何日分あるか」を見ているだけです。
| 日数 | 計算式 |
|---|---|
| 売上債権回転日数 | 売上債権 ÷(売上高 ÷ 365) |
| 棚卸資産回転日数 | 棚卸資産 ÷(売上原価 ÷ 365) |
| 仕入債務回転日数 | 仕入債務 ÷(売上原価 ÷ 365) |
(出典:CCCの計算方法(建設ドットウェブ))
たとえば売上債権が2,000万円、年間売上が1.2億円なら、2,000万円 ÷(1.2億円 ÷ 365)= 約61日。「売上代金は平均で約2か月後に入る」という読み方になります。
業種差は「日銭が入るか」「在庫を持つか」「売掛の回収が長いか」の3点に主に表れます。実際には粗利率・外注比率・前受金・支払条件でも変わりますが、まずこの3点で整理すると見通しやすくなります。構造で3タイプに分けてみます。
| タイプ | 代表業種 | 売掛回収 | 在庫 | CCCの傾向 | 運転資金の必要度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日銭型 | 飲食・宿泊・小売(店頭現金) | ほぼ即時 | 少なめ | マイナス〜短い | 小さい |
| 在庫型 | 小売(卸・EC)・製造 | 短〜中 | 多い | 中〜長い | 中〜大きい |
| 売掛長期型 | 建設・受託制作・BtoBサービス | 長い | 仕掛が膨らむ | 長い | 大きい |
ポイントを補足します。
上の日数はあくまで構造の傾向を示す一般的な目安です。同じ業種でも取引条件しだいで大きく変わるため、最後は自社の数字で出すのが鉄則です。
各項目は月次試算表から拾えます。freee 会計を使う場合の探し方の例です(画面名・メニュー構成は変わる可能性があるため、最新はfreeeヘルプセンターで確認してください)。
月次で経常運転資金の推移を追うと、「売上が伸びるほど運転資金も増える(増加運転資金)」という資金繰りの山が事前に見えます。受注が増えた直後にかえって資金が苦しくなる、いわゆる増加運転資金の罠を先回りできます。
前提を置いて計算します(あくまで一例です)。年商1.2億円・売上原価7,200万円の受託制作業を想定します。
経常運転資金 = 2,000 + 600 - 900 = 1,700万円 CCC = 61 + 30 - 46 = 約45日
この会社は、売掛・在庫・仕入の差し引きで約1,700万円が事業に拘束されている、と読めます。これは「口座に1,700万円を常時置くべき」という意味ではなく、この拘束分を自己資本・借入・前受金などでどう賄うかを考えるための目安です。仮に取引条件(回転日数)が同じまま売上が1.5倍になれば運転資金も概ね1.5倍に膨らむため、成長局面ほど資金手当てを先に考えるべきだと分かります。
必要額が大きいと感じたら、CCCの3要素のどれを動かすかで考えます。
このうち1日縮めるといくら資金が浮くかは、項目に応じた分母で概算できます。売上債権を短縮するなら「年間売上高 ÷ 365 × 短縮日数」、在庫削減・仕入債務延長なら「年間売上原価 ÷ 365 × 日数」です。先ほどの例なら、売上債権を10日縮めると 1.2億円 ÷ 365 × 10 ≒ 約330万円の現金が戻る計算です。月次面談では、こうした「日数を金額に翻訳する」ところに会計の使いどころがあります。
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